1.はじめに

 予防と健康の講義でアスベスト被害についてとストレス・うつ病についての2種類のビデオを見た。そのうちアスベストについて調べたことを述べる。

 

2.選んだキーワード

 アスベスト、ハザード

 

3.論文の内容の概略

「アスベストに関連した中皮腫の疫学」「アスベスト肺癌(石綿肺癌)

 アスベスト(石綿)は繊維状鉱物であり、優れた断熱性、非腐食性、耐熱性、絶縁性を有し、安価であるため、建築資材や断熱材など多彩な使用目的で使われてきた。米国ではアスベスト(石綿)は「メンブレンフィルターで捕集し、400(対物4mm)の位相差顕微鏡で、長さ5μm以上、長さと幅の比3:1以上の繊維」とされ、顕微鏡レベルで長さと幅の比(アスペクト比)3以上の繊維状珪酸塩鉱物である。蛇紋石族セルペタインのクリソタイル(白石綿)、角閃石族アンフィボールのクロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトの6種の鉱物の総称で、その内の青、茶、白石綿が日本で使用されてきた。そのなかで、中皮腫の発症力が強いとされているのはクロシドライト(青石綿)である。

 石綿関連疾患とは、アスベスト(石綿)肺、肺癌、中皮腫(胸膜、腹膜、心膜、精巣鞘膜)および胸膜疾患(石綿良性胸膜炎、びまん性胸膜肥厚および胸膜肥厚斑、限局性胸膜肥厚を含む胸膜プラーク)を指す。石綿曝露の指標となる医学的検査所見としては、X線上の胸膜プラーク、組織標本におけるアスベスト小体、石綿繊維がある。

 石綿肺癌はアスベスト吸引による肺の繊維化を先行病変として発生する肺癌、つまり石綿肺に合併した肺癌を指す。これは、アスベスト作業者に発生した肺癌のほとんどに、石綿肺の病理所見である不整形陰影を伴っていることを根拠としている。

 中皮腫は臓器表面と漿膜表面の中皮細胞由来の腫瘍で、胸膜・腹膜、心膜や精巣鞘膜より発生する。頻度としては胸膜中皮腫が多く、臓側胸膜に発生する腫瘍ではほとんどが良性有茎性の繊維状腫瘍であり、壁側胸膜発生の腫瘍はびまん性に発育する悪性腫瘍で病理組織像も多彩であり、壁側の方が多い。上皮型中皮腫と肺腺がん、肉腫型中皮腫と肉腫、繊維形成型中皮腫と反応性中皮細胞増生、二相型中皮腫と他の二相性を示す腫瘍との識別が難しい。

 石綿健康被害の疫学調査あるいはリアルアセスメントを考察する上で重要なのは、石綿繊維のサイズと種類である。蛇紋石族の単一繊維は直径0.020.04μm、角閃石族では0.10.2μmでありいずれもヒトの肺胞まで達する。吸引された石綿繊維は呼吸器系気道内において沈殿、拡散、充填沈着し、表皮細胞から肺間質組織へと移動して炎症反応が進行する。クリソタイル(白石綿)繊維におけるクリアランスは繊維の長さ10μm以上の繊維はゆっくりと下部気道で処理される。クリソタイル(白石綿)鉱山労働者を対象とした調査では、18μm以上の長い繊維は持続性曝露により肺内に蓄積する。半減期は白石綿の長さ10μm以上で8年、トレモライトでは16年との報告もある。

 職業性曝露の場合、吸引されたほとんどはアスベスト小体または繊維として肺組織内に残留するが、扁桃、胸部および腹部リンパ節、胸膜、腹膜、肝臓、腎臓、小腸にも検出されることがある。石綿繊維の肺組織沈着に続いて、石綿肺初期病巣は肺胞管内および細気管支周囲の肺胞マクロファージへの蓄積である。繊維芽細胞や間質マクロファージ優位に組織肥大が進行し、数年かけて組織の繊維化がおこり、気道壁から肺間質組織へと石綿繊維が輸送される。特に白石綿繊維では断片化が繊維数および繊維の表面面積を上昇させ、生体内持続性に影響を及ぼすことも指摘されている。

 歴史的な石綿曝露と中皮腫との関係についてだが、アスベスト(石綿)曝露量と中皮腫との量-反応関係が初めに示されたのは紡績労働者であり、続いてガスマスク製造労働者、石綿鉱山のでの採掘労働者、そして船舶業労働者において報告されている。特に196070年代、主にイギリス、ドイツ、アメリカ、オランダ、イタリアでアスベスト(石綿)に関わる製造業、断熱材や船舶業労働者の死亡率研究から多くの知見が得られている。

 石綿曝露分類でよく用いられるのは、1977ECコミッションが提案した7分類(直接職業曝露、間接職業曝露、農業による職業曝露、家庭内曝露を含む傍職業曝露、レジャー時における傍職業曝露、近隣曝露、環境曝露)であり、この論文では直接職業曝露、傍職業曝露の疫学調査を中心に述べられている。

 職業性曝露にはアスベスト鉱山の採掘あるいは搬出、粉砕関連作業によるものと、それ以外のものがある。その中で曝露リスクの高いものに建設業、板金作業、電気・水道工事作業であり、船舶・鉄道作業者、断熱材製造業などが中皮腫のハイリスク職業となっている。

 製造過程の定常的な曝露形態だけでなく、保温・断熱材の補修・メンテナンスなどの非定常的石綿曝露による中皮腫発症も多い。1975年に原則禁止となったアスベスト(石綿)吹付け作業では高濃度曝露の危険もある。ボイラー、発電所、船舶などの配管や補助施設の保温用として、ガラス工場、鋳造場などでは防熱、防火用にアスベスト(石綿)布が使用されていたので断熱作業や配管補修作業で曝露されることもある。

 傍職業曝露には家庭内曝露および近隣曝露がある。そのため、診断時に職歴や居住歴だけでなく、家族内曝露や趣味などの情報を得ることも重要である。石綿取り扱い時の作業服の洗浄などでの石綿曝露により、中皮腫、胸膜肥厚、石灰化、肺繊維化が観察されている。

 日本の石綿肺症例では、1927年の石綿工場労働者の記録が最も古く、その後1960年に石綿繊維労働者の石綿関連肺癌症例が報告された。日本で中皮腫の初症例が報告されたのは1973年であり、断熱材製造業に携わった者でアスベスト(石綿)肺が認められた。石綿関連疾患は石綿製品工場だけでなく、船舶関連や建設業などでも報告された。石綿曝露と中皮腫に限定した疫学研究は非常に少なく、今後近隣曝露を考察する上で地理的解釈も含めた疫学調査が必要となる。

 疫学的調査の結果から、アスベスト(石綿)と健康被害の関連についてまとめると

1.蛇紋石族、角閃石族を問わず、肺癌・中皮腫・他のアスベスト(石綿)関連疾患の発症リスクを増大させる。

2.石綿における毒性の決定因子として、曝露濃度、曝露期間と頻度、アスベスト(石綿)繊維の形状や種類があげられる。

3.同じ形状である場合、青石綿やトレモライトなどの角閃石族の方が、白石綿と比較して下部呼吸器内に長く保持され、発がん性が高い。

4.職業性曝露において、間質性の繊維化は病状を悪化させる。

5.肺癌発症リスクは喫煙により相乗的に増加するが中皮腫においては喫煙との関連はない。

6.職業性曝露の場合、肺癌や石綿肺の潜伏期間は通常15年以上であるが、石綿曝露を受けてから中皮腫の診断を受けるまでの期間は通常30年以上である。

7.中皮腫発症においては職業性曝露だけでなく、家庭内曝露や近隣曝露を疑う必要がある。

 

アスベスト小体の検出は、職業曝露かどうかを判別する上で重要である。アスベスト小体とは、アスベスト繊維がフェリチンやヘモジデリンなどで被覆されたものを指す。石綿曝露量を評価する際には、位相差光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡を用いて肺組織中や気管支肺胞洗浄液(BALF)のアスベスト小体を測定する。ヘルシンキクライテリアでは乾燥肺1gあたり1,000本以上が職業曝露であるとしている。肺組織を得られない場合は気管支肺胞洗浄(BAL)を行い、洗浄液1mlあたりアスベスト小体が5本以上検出される必要がある。

 日本では1960年代後半から1990年代前半にかけ、年間約30トンの石綿が輸入されていた。この時期に大量の石綿が建築物に使用され、今後10年間で解体現場から計4,000万トンの石綿含有窯業建築廃材の排出が予想されるが、石綿除去費用の節減を図るあまり、不十分な飛散対策や無届出工事などによる作業時の石綿曝露が懸念される。また、石綿除去作業に伴い発生した石綿廃棄物処理中のアスベスト(石綿)飛散防止への適正な処理対応が望まれる。吹付けアスベスト(石綿)除去作業も高濃度の石綿が飛散する恐れがあり、防じんマスク着用などの管理が不適切な場合、石綿肺等の石綿関連疾患に罹患する可能性がある。

 石綿曝露と中皮腫との因果関係を考察する場合、石綿曝露状況、診断精度、曝露量・反応関係、交路・バイアスの調整、曝露と発症までの経過時間が重要となる。しかし日本における中皮腫に関する疫学調査は非常に少なく、特に長期間の低濃度曝露の影響など未解決な部分も多い。石綿の有害性については1989年にWHOILOで勧告され、イギリスでは1970年から80年代に石綿輸入の禁止と迅速な対応がなされた。日本では対応が遅れ、石綿関連労働者ばかりでなく、老朽化したアスベスト(石綿)吹付け建築物からの石綿飛散も懸念されており、国民全体の健康被害に直接影響する社会問題に発展した。イギリスを始め石綿消費国では中皮腫登録制度により、各国でその形態は異なるが、その実態が把握されている。しかし日本では現在までのところ、全国規模で労災補償の対象とすべき中皮腫件数が正確に把握できない状況にあり、中皮腫登録制度のできるだけ早期の開始が望まれる。また、中皮腫の早期発見においては過去の石綿曝露状況の把握が極めて重要であるが、中皮腫発症までの潜伏期間が長期であるため患者本人からの聞き取りも難しい場合が多い。特に、一般健診、人間ドックなどの機会に得られる胸部X線写真では、臨床医の石綿関連所見を意識した読影と、必要に応じて石綿曝露のリスクに関する職歴や居住歴等の情報収集も念頭におくことが望まれる。

 

4.考察

 アスベスト問題は戦後最大規模の健康被害となっている。潜伏期間が長いため、使用を控えたからといって被害が激減することは有り得ない。これからもアスベストが原因の中皮腫患者は増え続けるだろう。これから医師になろうとする者は「どうしたら発症する患者数を減らせるか」ではなく「どれだけ早期の症状で患者を発見できるか」を考えなければならない。そのためにも健康診断などで撮影された胸部X線写真から「自覚症状のない患者」を見つけることができる程度の知識は呼吸器が専門でなくても持っておきたい。